【 魔神降誕 】

文:梟   絵:雁

「エグ、トバス、アバーウ、エグ、トバス、アバーウ」
「ウフ、インダハウ、クバーエ、ロロ、トリーリ・・・・・・」

 辺境に黒々と横たわる山岳地帯。妖魔や怪物が跋扈する不毛の地。しかし、魔を信奉し、現し世から逐われた者たちにとって、そこは格好の隠れ場となる。険しい山腹に深く穿たれた空洞。その奥に広がる大広間に邪教の宗徒達は集い、這いつくばり、彼らの詠唱が闇を揺るがせる。
 大広間の中央は一段と高い台座になっており、醜怪な仮面をつけた司祭と2人の忠実な信徒、そして哀れな生贄たちによる、おぞましくも淫らな演劇が幕を開けようとしていた。 司祭は、右手に奇怪に波打つ短剣を持ち、左手で雄鶏の首根っこを掴むと、すばやく短剣を一閃させた。雄鶏の頭が宙を飛び、鮮血が吹き上がる。滴る血潮が、御影石の玉座を彩っていく。玉座は人間が腰掛けるにはあまりにも巨大であり、一面に禍々しい古代文字とおぞましき魔神の姿が浮かし彫りされ、おそらくは遥かに太古に作られたものに違いない。
 玉座の血化粧が終えると司祭は、後ろを振り返る。2人の信徒に両肩を掴まれた哀れな主役が、舞台の上に引きずり出される。
 どこの町にでもいそうな少年。衣服は剥ぎ取られ全裸であり、その股間にはまだ陰毛すら生えず、穢れを知らぬ子供。それが眼前に広がる異様な光景に声も無く、ただ慄いている。おそらくは、彼らの手で攫われてきたのであろう。この日のために。
 司祭の視線を受け、2人の信徒は少年の肩を掴む腕に力を込め、玉座へと押しやる。
「やだ! やだよっ!!」
 少年は、恐怖に目を一杯に開き足を踏ん張って抵抗するが、滑らかで何の足がかりもない床をすべるように引き摺られていく。
「座れ」
 玉座の前で、信徒の1人が少年に命ずるが、少年はただ首を振るばかりで座ろうとしない。司祭は影のように滑り寄り、少年の耳元で囁く。
「座れば家に帰してやる」
 少年は、その言葉に思わず司祭のほうに顔を向ける。少年のすがるような眼差しを受け、司祭は深く首を縦に振る。少年はゆるゆると顔を玉座の方に戻し、自分からゆっくりと玉座のほうに歩を進める。司祭の表情は仮面の下で窺い知ることはできない。
 玉座に腰掛けた少年は、むっとする生臭さと自分の背中と尻にふれるヌルヌルとした血潮の感触に、激しい嫌悪感と嘔吐感を覚えた。邪教の信者達の、まるで自分を崇めるかのごとき眼下の光景に奇妙な違和感を感じる。違和感? 違う、何かが僕の中に・・・・・・!!
「あ、ああああぉおぉっ、あっっ、おおおおおぉぉぉぉ!!!」
少年は、突然身体を硬直させ、全身を痙攣させる。半開きになった唇から唾液がとめどなく漏れ滴り、言葉にならない悲鳴を垂れ流す。ピチッピチッと音を立てて、全身の血管が浮き上がり、髪の毛が逆立つ。軋むような音と共に少年の肉体は明らかな変貌を遂げつつあった。
 全身の筋肉が見る見る肥大し始め、異形の姿が形作られる。皮膚の色が赤銅色に変色し、なめし革を思わせる質感と硬度を備え、両手と両足からは長大な鉤爪が伸びる。口は鰐のようにせり出し大きく裂け、獣の牙をむき出しにした。可愛らしかった肉の突起は、硬く勃起して自らの皮を破り、醜悪な肉の槍へと変貌を遂げ、その頂点において白濁の汚液を大広間の天井に向けて吹き上げた。
『キシャアォォォォォォォォッ!!!』
 奈落より召還されし魔神は、少年の肉体を依代に、仮初の実体を得たのである。
「我らが神は降臨を果たされた。受胎の準備を」
邪教の司祭は、厳かに信徒たちに託宣を下し、舞台の次の幕があがる。


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