[ STORY ]
 
 
 
『 種付け姫〜悪戯の代価 』 その一   
               文章:梟    挿絵:雁
 
 
「姫様ぁ、お待ち下さい〜」
 
艶やかで豪華なドレスを身に纏ったアンリエッタ姫の後を、若い侍女が追いかける。周囲は鬱蒼とした森にも関わらず、アンリエッタは燕のような身のこなしで木々の間を駆け抜けていく。
 
「もう、ノーリったら、ぐずぐずしてたらフェーオールの婆さんに連れ戻されてしまうわ」
「それなんですけど……やっぱり、もどりましょうよぉ。姫はとにかく、私はどれだけ怒られるか……」
 
厳格な侍女長、フェオールの激怒した顔を思い浮かべるだけで、目眩がしそうなノーリだった。
 
「大丈夫よ。私が無理にそそのかしたことにすればいいわ」
 
 すればいいって実際にしてるじゃないですかぁ、とはノーリは言わない。また、フェオールでなくても、そんな子供騙しな言い訳が通るわけが無い。とはいえ、姫の御下命を一介の侍女が撥ね付けられるはずも無い。無い無い尽くしの状況に、ノーリはもの悲しい覚悟を決めるしかなかった。
 
 
 アンリエッタ達は、隣国への輿入れのための旅の途中である。王族の娘に恋愛の自由は存在しない。縁戚関係は政略と外交の重要な一環であり、その相手は、王国の首脳部があらゆる条件を鑑みながら選定する。そこにアンリエッタの希望などひと欠片といえど入る余地は無い。彼女の相手は、王国の長年に渡る同盟国の王であり、彼女より21歳年上の39歳。先妻を亡くした後添えにアンリエッタが嫁ぐことになったのである。彼女もさすがに自分のわがままでこの縁談がどうにかなると思うほど子供ではない。王族とはそういうものだとだと割りきって育っている。
 アンリエッタが我慢ならないのは婚儀そのもの窮屈さであった。着るものから食べるもの、一日のスケジュールから、行事ごとの立ち居振舞い、沿道で見送る民衆への応え方まで事細かく定められており、それが王国中を回りながら2ヵ月もの間続く。今、着ているドレスも、最初こそ晴れがましく心浮かれたが、3週間もの間、朝から晩までこれを着ることを強制されたら、さすがにうんざりする。もちろん、同じデザインのドレスが何着か用意されているわけだが、途中でお召し物を「代える」のは心が「変わる」に連なるので不吉、ということで全く同じデザインのドレスをひたすら着せられているわけである。もともとの厚手の生地に加え、金属性の装飾品、何重もあるベチコートにコルセット、上腕部まであるアーム・ロングの手袋、大腿部にまで届くストッキング、頭には冠に似せたブライダルキャップ。こんなものを朝から晩まで着ていたら窮屈、肩は凝る、頭痛はする。しかし、大勢の人目にさらされるセレモニーでしかめ面でいるわけにも行かず、臣民の歓呼には笑顔の大安売りをしなけばいけない。こんな日々があと1ヶ月も続くことにアンリエッタの我慢も限界に達したのである。
 一番のお気に入りの侍女ノーリを引きこんで、護衛兵や他の侍女の目をかすめて宿舎を抜け出したのが今日の朝。今ごろはとんでもない騒ぎだろうがかまやしない。夕方までゆっくり羽を伸ばして、のんびりと街道に戻れば、何の問題も無く花嫁行列に戻れるはずだった。
 
 
続く…
 
 

 
 
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